■鮮度の落ちが速く、取り扱いが難しい水産物

多くの島々で構成されているインドネシアは、日本と同様豊かな水産物に恵まれている。しかし残念ながら、現在でも首都ジャカルタのスーパーでさえ、手に入る魚介類は鮮度がいいとは言えない。今回は、水産物の流通·鮮度の維持、漁師の生活の向上に挑戦するスタートアップ、Fishlogについてご紹介しよう。

Fishlogの創業者・Bayu氏は、実践的な学問を学べることで名高いボゴール農科大学海洋科学·漁業学部の出身。在学中に魚肉ソーセージ等の生産、販売に関わったのが初めてのビジネス経験である。

Bayu氏は家族が公務員であったため、大学卒業後2年間以上も家族から公務員になることを強く勧められた。しかし彼の思いは公務員になることではなく、ソーシャルビジネスであった。

Bayu氏は「水産物の取り扱い、輸送ができる物流システムはどのような生産物も扱える」という大学の教授の言葉を今でも覚えているという。

水産物は農産物、鶏肉、牛肉とは異なった特性を持っている。生鮮魚介類はタンパク質の変性速度が速く、鮮度の指標として使われるテクスチャー、色、味、匂いがあっと言う間に落ちる。そのため、手早く流通に乗せて処理する必要がある。一方、魚は種類が多く、大きさや品質もまちまちで規格化が難しい。さらに漁獲量の変動が大きいので、時期、場所ともに集中する場合がある。このような点が水産物の流通に複雑さを加えている。大学時代の教授の言葉は、鮮度がすぐに落ちる水産物を扱うことができれば、野菜、果物、牛肉、鶏肉などの管理も可能だという意味だ。

漁師と卸売業者を結ぶプラットフォームで水産物のフードロス問題に挑戦

 インドネシアでは漁獲物の40%近くが廃棄されており、フードロスが大変多いことに着目したのがFishlogである。多大なフードロスに立ち向かうFishlogは現在、投資家に注目されている。

 熱帯の国であるインドネシアで、魚の鮮度を落とさずに保管、配送できるロジスティックシステムが欠けていることがフードロスの大きな要因だ。また、漁業者と販売者の繋がりの少なさも指摘されている。漁業者が陸揚げしても、連絡できる相手(購入業者)がいないのである。せっかく魚を獲っても常夏のインドネシアでは急速に鮮度が悪くなり、冷蔵·

冷凍倉庫がない地域では廃棄せざるを得ない状態になる。真夏に魚を正しく保管せず、外に出しっぱなしにすればどのようになるか容易に想像できるだろう。

現在のFishlogのビジネスは、主に水産物のサプライチェーン(BtoBネットワーク)の確立とデジタル化。簡単に言えば、漁師と卸売業者を結ぶ水産物のプラットフォームである。一般の消費者がAmazonなどで商品を買うのと同じように、魚の卸売業者はFishlogのプラットフォームで魚を注文。自社の冷凍車・冷蔵車で冷凍倉庫まで運ぶ。

Fishlogはあくまでも仲介を行うためトラックや倉庫を所有していないが、漁師から鮮度の良い水産物のみを購入できる状態にし、品質維持に重要な保管倉庫をコーディネートする。

魚は種類により管理温度が違うが、その中でも扱いやすいマイナス20度で管理するのに適した魚を現在Fishlogでは取り扱っている。2021年10月には1カ月で200トンの水産物を取り扱った。今後は扱う魚の種類を増やし、現在は最も需要がある首都ジャカルタと周辺地域、ボゴールまでのエリアで事業を行っているが、インドネシア全土に拡げて行く予定だ。

■サプライチェーン全体の改善にコミットメント

 Fishlogは来年度以降、サプライチェーン全体のアセスメント、コンサルティング、維持を行うサービスを提供する計画を持っている。サプライチェーンのすべての段階でFishlogのノウハウや基準が実施されるようにアセスメント、改善、維持、フォローし、漁師が獲った水産物の保管·管理から最終目的地である冷凍庫での陳列、保管までを一貫性のあるものにする。たとえば、漁師には漁獲の取り扱い方から、冷凍方法、運送時の温度管理、冷凍車の中の魚の配置、保管倉庫までの日程作成、倉庫での保管方法まで、サプライチェーン全体に対して改善を提案、実行するサービスを提供する。これによって鮮度を保てるサプライチェーンを実現したいとBayu氏は言う。 

 サプライチェーンの問題のひとつは、漁師組合が存在しない現状において、漁師のほとんどが地域の倉庫にアクセスできないことだ。漁師一人一人が地域の管理された倉庫にアクセスでき、販売するまで獲った魚の鮮度が保たれるようにサポート体制を整える。これにより、獲れたての漁獲の一部が無駄になることを最初の段階で防ぐ。

最終的には小売業者や消費者に鮮度を保った水産物を供給する、持続可能なシステムの実現を目指す。そして将来的にはインドネシア全土で農産物などの取り扱いもしたいと、Bayu氏は夢を語ってくれた。

■インドネシアの漁師の生活を改善するために

Fishlogは、インドネシアの漁師の生活向上を重視している。

日本では各地域に漁業共同組合があり漁師の経済的·社会的地位の向上、生産力の増強を図っているが、インドネシアではこれが存在しない。漁師になったのは、海辺に近いところで生まれ育ったから。銀行口座を持っている漁師も少ない。貧しい上に生活向上の手段や仕組み、組織が欠けているのである。

漁師の生活は不安定だ。多少裕福な漁師は木造船を所有しているが、他の漁師は他の漁師の船に乗せてもらい、漁業を営む。漁師の稼ぎは、基本的に日雇い労働者のようにその時の漁獲高によって決まる。しかし、多く獲れたからといって収入が増えるとは限らない。漁師は氷を購入して船に積み、

漁に出かける。多く獲れた日には魚に対して氷が不足し、魚の品質·鮮度が下がることになりかねない。積んである氷とのバランスを考えて漁をしないと、魚を多く獲っても収入に結びつかないのだ。

 FishlogのBayu氏と話していて驚いたことがある。インドネシアでは、金属製の船を漁業に使うことが法律で禁じられているという。貧しく、社会的弱者である漁師を守るというのがその理由だ。Bayu氏曰く、「通常、500トン以上の船は強度、安全性の面から金属製である必要があるため、インドネシアで漁業に使われるのは500トン以下の木造の船になる」。

 2018年、当時のスシ海洋水産相が違法漁業への「見せしめ」として拿捕後の外国密漁船を爆破処理をしたことは記憶に新しい。360隻余りを司法手続きに基づき沖合で爆破し、魚礁にしてきた。法律の是非は別として、金属製の500トン以上の最新設備が整った外国漁船にインドネシアの小さい木造漁船が到底かなうはずはないのは明らかだ。

サプライチェーン全体を改善することで、こうしたインドネシアの漁師を取り巻く状況を改善したいというのがBayu氏の思いである。

「Fishlogは漁師と購入業者をつなぐサイトを提供、ネットワークとシステム構築をしていますが、水産物の品質チェックや品質維持のサポート、指導もしています。インドネシアからの水産物を輸入する際は、輸入業者にぜひFishlogを介した調達を希望とお伝えください。また漁師の生活向上や持続可能な漁業を目的とする事業であるため、漁業とSDGsに関わるプロジェクトがある際はぜひお知らせください。インドネシアの漁師の生活向上、漁業の発展、フードロスの削減、そして鮮度の高い水産物提供の支援に力をお貸しいただければ幸いです」とのメッセージをBayu氏から預かっている。関心のある企業は、ぜひサポートして欲しい。

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