
■インドネシアに不足している「健康的でクリーンな食事」
インドネシアの社会問題の解決にチャレンジするスタートアップを日本インドネシア協会の方がたにご紹介したくスタートした本連載。第5回は、植物ベースのヘルシーフードのレストランを展開するバーグリーン(Burgreen)をご紹介する。
植物ベースのヘルシーフードは、一般的に健康的と言われる日本食を食する日本人にも、まだまだとっつきにくい人が多い。ましてや、インドネシア人はアヤムゴレンやイカンゴレンなどいろいろな肉のパートや油が使われる“グリー(Gurih)”な料理を好む。そうした社会に健康的な食事を啓蒙しよう、という若者のスタートアップである。
前回までの4回は主に貧困層の教育やビジネスの解決の話だったが、今回はジャカルタの都会に住む中流層以上がターゲットになっている。ジャカルタでは多くの富裕層さえ簡単に健康を害し、その医療費で生活が破綻していく様を半世紀にわたり見てきた私には、この事業はこの国のもう一つの大きな社会問題を解決するスタートアップであり、しっかり応援していかなければならない企業である。
この国はあまりにも、健康に関する教育や情報が長らく足りていなかった。会社においても病欠が多く、この国の生産性の低さはそれも原因の一つなのだと思う。インドネシア人にはもっと健康が必要だ。バーグリーン創始者のヘルガ(Helga Angelina)は、「インドネシア人にサラダや生野菜を好まない人が多いのは、化学調味料の味に慣れ、健康に良い食品は味が平坦でよくないというイメージを持っているから」と言う。インドネシアでは、11の死亡症例のうち10例は悪い食事習慣によるものという調査結果もある。ヘルガ自身、幼少期より慢性的に健康を害することが多かった。自己免疫疾患に喘息、そして20種類の食べ物にアレルギーがあった。しかし15歳の時に植物ベースの食事制限をし、15年飲み続けた薬が要らなくなり健康になった。その経験がきっかけで、植物べースの健康食品にパッションを持つようになった。
その後、留学先のオランダで、共同創設者でのちに夫となるマックス(Mas Mandias)に出会う。彼は食肉製品と気候変動の関係性といった環境問題、また彼が食べる牛が彼が好きな犬と何ら変わらないと気づいてからベジタリアンになった一人だった。
ヘルガ達は出会って以来「どうやって人びとの食習慣を本当に変え、健康で継続的なものにできる
か」を何度となく話し、そして「美味しい健康的な植物ベースの食品を作り、ジャカルタの都会の人々が食べられるよう」にすることが彼らがもっともインパクトをもたらす解決法なのではないか、という結論に至った。その信念によって卒業後インドネシアに戻ることを決意し、すぐにバーグリーンをスタートした。

■マーケットの嗜好を掴み「美味しく健康的な料理」を提供
健康で美味しいクリーンな食べ物をジャカルタの人にまずは届けよう、という熱意で2013年にスタートしたバーグリーンは2020年現在、すでに10店舗。また2つ目のブランドであるグリーンブッチャー(The Green Butcher)も、ショップ12店とレストラン20店舗までになった。従業員も200名を超えている。
一体、どうやってあのインドネシア人たちに植物ベースの健康フードを浸透させてきたのか。最初のレストランでは、最小限のメニューでの小さなスタートを切った。その店で2年間、さまざまなメニューやイベントを通して、どの味が顧客に最も受け入れられるかを入念に見ていった。
バーグリーンの店舗はジャカルタの主なショッピングモールにも多く入っており、日本人もよく利用している。弊社JACの日本人グルメ女性も初期からのヘビーユーザーだ。彼女に人気の秘訣を聞いたところ、ヴィーガン=サラダばかり、大豆を使ったバーガーや軽い洋食系メニューが多いイメージだったが、バーグリーンにはキノコのルンダンとか大豆のサテ、ソトなどインドネシア料理のメニューが多く、しかも美味しい。こういった努力がジャカルタの人に受け入れられた理由だと思う、とのことだった。料理はあっさりしすぎも軽すぎもせず、ちゃんと満足感も得られるところもインドネシア人好みであるようで、マーケットの嗜好を的確に捉えているのが成功の秘訣のようだ。
ぜひ、ウェブサイトをチェックしてみてほしい。お肉に見えるものなどもすべて植物ベースの食べ物になっている。食材は、共同創設者のマックスが生産者の元に直接足を運び、農家の人と面談をし、持続可能な有機栽培されている物を選んできた。現在でも品質を保つため、簡単ではないが50%は農家から直接仕入れるようにしている。事業開始3年目の2016年、何が受け入れられるか十分にわかるようになってきた段階で拡大に踏み切った。2020年、コロナ禍においても、温めるだけのチキン風、牛肉風の植物ベースの肉食品を新たに導入。コロナにあっても更に増資計画がある。コロナで健康志向が強まったのも追い風となっているようだ。
バーグリーンは、400の有機栽培農家と20の農業コミュニティにも影響を与えている。ほかにもウェルネス·スタジオ、料理教室、zero waste bulk sourceなどを通して、長くインドネシア人たちが健康に幸せでいられることへのシンプルな解決法を提供してきてくれている。彼らの熱意と勤勉さでインドネシア中の人々を健康で幸せな人生が送れるようにしていって欲しいと願っている。
Burgreenウェブサイト : https://burgreens.com/
