■量り売りでパッケージを使わないショップ
今回ご紹介するスタートアップは、パッケージなしで商品を量り売りするグロサリー(食料雑貨店)のBulksourceである。
廃棄物ゼロを目指す「ゼロ·ウェイスト」は世界的に盛り上がりを見せているが、ジャカルタのこのお店はさらに一歩進んでインドネシア国産品のみを取り扱い、蜂蜜以外は植物由来の製品をメインに取り扱っている。容器を持って来ていない顧客のために再利用可能な容器を店内で販売し、リサイクルできるものの回収箱を置くなど、そのエコロジーの姿勢は徹底している。
Bulksource創設者の1人であるPutri Arif Febrilaさんは、台湾で修士課程を学んだ。台湾では、サステイナビリティやゴミ分別に自然と触れる生活をしていた。毎日決まった時間に回収に来るトラックに有機ゴミを出し、有料のゴミ袋をなるべく買わないようにゴミの量を減らし、当たり前のこととしてゴミの分別をしていた。また、台湾ではリサイクルの仕組みや、健康を意識した有機野菜、ヴィーガン対応の食べ物などを売っている店などが身近にあった。
修士課程を終えてインドネシアに帰国すると、台湾とのあまりの環境の違いにPutriさんは戸惑うことになる。故郷のジャカルタではゴミの分別をせず、リサイクルも稀だった。現在、インドネシアのリサイクル率は9パーセントだ。
Putriさんは、ジャカルタで社会的インパクトを与えたり、環境に配慮した実績を持つ会社にエンジェル投資家の資金を分配する会社に就職した。その後、仕事の中で出会った植物由来の食べ物を扱うBURGREENS社に転職。そして1年後、女性仲間6人でBulksourceを創設した。
■誰にでもできるエコでサステイナブルな暮らしを提案
Putriさんは、台湾でファッションやブランディングを学んだ。学生時代は、ゴミ問題に取り組もうとしても専門的な知識を得たり、コネを作ったり、政策への働きかけなどを行うのは難しい状況だった。ただ、消費者としてできることはあり、環境に配慮する消費者が広がれば少
しずつでもこの問題は改善するのではないかと思ったという。
ジャカルタでは若い人の環境への意識は比較的高いが、何をして良いかわからないという人が実に多い。そこで、気軽に、かつ簡単にできるオプションを提供することが環境問題解決への道につながるというのが彼女の提案である。
品質の良いおいしい食べ物を再利用可能な容器で量り売りすれば、環境問題を考えている人たちが自然と集まり、コミュニティができる。通常の買い物習慣は変えず、買い物をする場所を変える。そのためにはオンラインではなく、まず店舗が必要だと考えた。
2019年にBulksourcesを設立した当時、ジャカルタには環境に配慮してリサイクルの容器を使い、ローカルメイドのオーガニックな植物由来の食品を量り売りするような店はなかった。高級スーパーにはオーガニック食品も植物由来の食品もあるが、環境に配慮せずプラスチックで包装するなど、すべての条件を満たすところはなかった。そこで、ワンストップで意識が高いジャカルタの消費者を取り込める店を展開することにしたのである。創始者6人は全員女性で、上記のような製品を求める消費者の8割は女性と言われている。店舗を構えて約2年が経とうとしている現在、6店舗で2000品目を扱い、総売上は年1億5千万円強となっている。
■ローカルの中小規模生産者を支援
Bulksourceは、単に量り売りをするだけの店ではない。Bulksourceの商品ラインアップに加わるには条件がある。
1.環境に配慮した製品工程
2.インドネシア国内産の製品
3.ゴミを出さない、もしくはリサイクルできる商品
4.再利用、もしくは廃物·不要な製品をより良い品質と環境価値の新しい材料、または製品に変換したもの
5.環境と人に(健康的な意味で)優しい
6.有機栽培
7.フェアトレード(生産過程において労働者·生産者賃金、生産物が適正価格である)
8.植物由来(海藻を含む)のもの
この条件を見ると、ローカルの中小規模の生産者が大歓迎であるということがわかる。仲介業者を入れず、質が良い生産物を直接取引のみで販売するのがBulksourceの特徴だ。
小規模の生産者は、自分達の製品をスーパーに置いてもらうことは無理に近い。仲介業者の条件や費用があまりにも高いからだ。Bulksourceは現在ジャカルタ周辺に6店舗を展開しているが、最初の店舗から販売している生産者はBulksourceの成長と共に確実に販売実績を伸ばしてきた。
このように高品質でローカルなものを販売している中小業者の成長を目の当たりにし、今後は新店舗の以外にスーパーの一角にBulksouceコーナーを展開し、中小業者の製品がより身近な存在になるようサポートする予定だ。現在取引している生産者や中小規模の会社は140社にものぼる。1人や2人という規模で生産していれば、マーケティング等の知識を得ることもマー
ケティングに人材を回すことも難しい。そこでBulksourceが代行し、さらなる販売、展開ができるようにする。
■オンラインストアの開設でネット慣れした消費者にもリーチ
最近の課題は、オンラインでも同じ体験をできるようにするオンランストアの開始である。ジャカルタも、オンラインで買い物をする人が実に多い。買ったものは、自宅まですぐにバイクで届けてもらえる。オンデマンドの宅急便のようなものだ。そして、配達サービスは大変安い。配達料金はジャカルタ市内では100円から300円程度だ。このような便利さに慣れている
ジャカルタの消費者を獲得するには、どうしてもオンラインストアを考慮しなければならないとPutriさんは言う。今年の上半期には、新たな実店舗の開設に加えてオンラインストアの運営を開始する予定になっている。
Bulksource創始者チームから、月刊インドネシアの読者に次のようなメッセージをもらった。「今までもジャカルタの日本人コミュニティにご利用いただいていました。今後もオンラインストアや店舗を増やし、環境や健康に良い、より便利なお買い物を目指していきますのでご利用ください。インドネシアの質の良いスーパーフードや、他店では見かけない製品もたくさんご用意しています」。健康を守りつつ、ジャカルタでエコに繋がる生活をしたい方は、ぜひ一度Bulksourceの店を覗いてみて欲しい。きっと満足な買い物経験ができるはずだ。