JACリクルーメントインドネシア 会長 吉原 毬子

顧客がマインドフルネスを得るための会社

 インドネシアの社会問題の解決にチャレンジするスタートアップを日本インドネシア協会の方がたにご紹介したくスタートした本連載。第8回は今までとはちょっと毛色が異なるゴールデン·スペース(The Golden Space)という企業を紹介したい。

 マインドフルネスという言葉をここ数年耳にされたことがあるかと思う。今に意識を集中することで心を整える技法で、ビル·ゲイツを始めシリコンバレーの若者たち、また日本でも最近ではメンタリストDAIGO、脳科学者の茂木健一郎などがその大切さを説いている。

 ゴールデン・スペースは顧客がマインドフルネスを得るための会社だ。顧客はパフォーマンス(集中力、記憶力、判断力、想像力など)の向上、対人関係のスムーズ化、ストレスや不安の軽減および充実感や幸福感の向上など、それぞれの課題をもって参加する。そして瞑想、ワークショップ、イベント、個人セッションなどを通じてマインドフルネスを高め、「身体、感情、メンタル、または社会的、ファイナンス的、キャリア的になど全体的なウェルネス」を得る。 

■「世界に愛情と調和をもたらすこと」がビジネスの原点

 ゴールデン・スペースは、元はシンガポールのマスター・ウメシュ(Master Umesh H. Nandwani )が2005年に立ち上げた会社だ。そのウメシュのコースを受けて傾倒してインドネシアで講師を始め、今は本部の共同経営者としてとしてインドネシア、マレーシア、オーストラリアなどでの展開を担うのがCindy Gozali (シンディ・ゴザリ)だ。名前で気づく人もいるかもしれないが、スディルマンの中心に大きなショッピングモールやホテルをもつファミリーの1人だ。

  シンディはアメリカ・ミシガン大学で2002年に産業工学学士を、スターリン大学で2013年にMBAを修めている。なぜ、彼女がこのビジネスに力を入れるようになったのか。彼女は2013年に友人に誘われてマスター・ウメシュのAwaken the Divine You(自己に目覚めよ)というコースを受けた。それがきっかけで、自分の人生の目的を「自己変革ホリスティック(シンディは全体や完成というような意味で使う)ウェルネス·プログラムを通して人々のライフ(人生)を理解し、世界に愛情と調和をもたらすこと」へと変えたという。

  それまでシンディは、ファミリーの小売業に携わり、結婚して子供を産んで、という家族の期待に応えようとしていた。ゴールデン·スペースを始めて両親は落胆して怒りもしたが、インドネシアほか各国で1000人レベルの顧客をもつ今、彼女を理解するようになった

ようだ。

■家族のために自分を見失うインドネシアの人々

 ゴールデン・スペースの料金は、グループコースで1時間22万ルピア(1700円程度)。月80時間クラスで69万ルピア(5300円程度)と決して安くない。日に3時間ほども受ける人がいるのは驚きだ。

  ミレニアル世代の起業家や企業もゴールデン・スペースを利用している。他国と比較したインドネシアの受講生の特徴は、「インドネシアは家族への帰属意識の強い国で、家族を大切にし、家族のために働くことが幸せだと思っているし、当然だと思っている。しかし、これが本当に自分がしたいことなのか、と悩む時がある」ことだという。彼女もそうだったわけだが、意外に多くのインドネシアの若者がその壁にぶち当たっているようだ。

 現在、20名ほどの講師がいるが、基本のコースを修了する以外、本人自身が自己を見つけ乗り越えてきたことがゴールデン·スペースで講師になる条件となっている。

  彼女はこのビジネスを、最も必要とする人がいるであろう大都市を舞台に展開している。参加者が瞑想などを自身のライフスタイルに取り入れられるように、また参加者が共に成長できるようLike Minded Communityというサポートシステムも作っている。競合は個人ベースで展開する事業主で、ゴールデン・スペースのような規模で展開する組織はない。

 この会社の活動が世界の何百万人という人たちに受けてもらえるようになることが、現在のシンディの夢だ。国により反応が異なることにも興味がある。日本人は静かだが、一度理解すると深い反応を示すのだそうだ。がむしゃらに家族のために働いてきた今までの世代にはなかったビジネス。賢い若い世代をサポートするこういうビジネスが伸びてきているのが興味深い。

精神的に追い込まれた起業家の人生のバランスを取る

 私は、これまで何百人の起業家に会ってきた。頭もよく技術もあり、最初の8年ほどはとてもパッションをもって頑張る。ただ私もそうだったが、その後、数字や周囲からの期待、リーダー、創業者としての見えないプレッシャーから精神的に追い込まれてしまうことが少なくない。そのビジネスを始めた理由が自分でわからなくなるほどに。私もそうした時に社長職を降りた経験がある。なのでこのゴールデン·スペースを知った時、とても面白かった。

 シンディたちは、起業家らのこうした段階に彼女たち自身の経験が役に立つことを知っている。長期的なビジョンとミッションへの変革が必要な時に、ゴールデン·スペースで学ぶことで人生のバランスを取ることができるようになる。だから多くの若い起業家がゴールデン·スペースを利用する。ミレニアル世代のシンディたちはテクノロジーに長けており、コロナ禍でもオンライン化を進めた。これからも音楽やデジタル化、グローバル化によって世界にビジネスをうまく拡大していくことだろう。

 最後に、シンディに日イ協会の方へのメッセージを聞いた。「Don’t work so hard. Take care of yourself」。それが回答だった。ぜひ、皆様にも自分を大切にしていただきたい。

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